自分の役割を型にはめ込まない

夫婦関係のトラブルに関する相談を見ると、どうも役割行動の硬直化に原因があるのではないかと思われるケースが少なくない。家庭生活を平穏に乗り切るために夫も妻もそれぞれの家庭内の役割を意識した心理的構えのもとにそれにふさわしい行動をとる。それは必要不可欠のことではあるのだが、役割行動があまりにもワンパターン化するのは問題である。

例えば夫が帰宅する。そこに待っているのは妻という役割をもった女性である。子どもがいれば母という役割をもった女性である。そこには恋人という役割をもった女性などいない。しかし、この夫には以前は恋人という役割をもった女性(現在の妻あるいは母としての役割をもった女性と同一人物として)がおり、その女性の前では自分も恋人としての役割にふさわしい心理的構えおよび行動をとっていた。今はそれが失われている。このような夫婦関係においては、どちらかに恋人としての役割行動への郷愁が湧いてきた時が危機となる。

それを防ぐには、役割行動の硬直化に。陥らない工夫が必要である。親としての会話しかない夫婦はもちろんのこと、夫婦としての役割行動のやりとりが家庭の維持に関するものばかりで、恋人同士としてのトキメキがないという夫婦は、試しに二人でおしゃれでもして町に出かけてみよう。景色を楽しみながらの散歩でもいいし、雰囲気のよい喫茶店でコーヒーでも飲んだり、ムードのあるレストランやバーで軽くアルコールを入れるのもよい。昔恋人同士であったころの気分を思い出すような空気を夫婦の間に創り出すのである。

同様に、職場の人間関係が堅苦しくてストレスとなるという者は、職場のさまざまな役割関係の中にプライベートな空気を吹き込む工夫をしたらよい。上司に対しては部下としての役割のみに徹しなければと思い過ぎたり、お得意さんに対しては業者としての役割のみに徹しなければとの思いが強過ぎたりするのが問題なのである。上司やお得意さんに対してであっても、お茶目な人間としての面、趣味人としての面など、自分の中の仕事上の役割と関係のない面を出せるようになるとずいぶん楽になる。

職場の人間関係がストレスとなっている者には、対等な立場の同僚との間にさえも自分の中の仕事上の役割に関係ない部分を出すことのできない者が多いようである。役割関係の硬直化を防ぐには、上司と部下、買い手と業者といった役割関係をちょっと抜け出した会話をするのが基本といえる。そこにそれぞれのプライベートな面が顔を出す。プライベートな心の触れ合いは、お互いの心理的距離を縮める。それはまた、役割関係に則った行動をより気持ちよくとることにもつながるのである。

— posted by 有働 at 01:06 pm